九州大学 大学院 薬学研究院
生理学分野   Department of Physiology
   
 
    
 研究概要

 現在COVID-19研究を進めています。
 当分野では、農学研究院 日下部宜宏教授・薬学研究院 植田正教授らと連携し、「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるプロジェクト」
に参加しています。6月の記者会見では、カイコ昆虫工場を活用した新型コロナウイルスワクチン製造(「食べるワクチン」)について
発表しました。
 また、カイコを使って精製したS抗原(SARS-CoV-2ウイルスの表面に露出しているSpikeタンパク質を模倣させた人工3量体タンパク質)を
RS-CoV-2ウイルスと見立てて、SARS-CoV-2の初期感染を宿主細胞膜上のSARS-CoV-2受容性タンパク質(ACE2)の細胞内への取り込み
(=内在化)により評価する系を構築し、ACE2内在化を阻害する薬を探索しています。我々の独自の研究から見出した心不全の原因となる
タンパク質間相互作用が、COVID-19重症化リスク要因であるタバコや糖尿病・抗がん剤投与・肥満等によって心筋で誘導され、結果、
ACE2受容体数を増加させることを明らかにしました。そこで、このタンパク質間相互作用を抑える既承認薬20種類の中から、ACE2内在化も
抑制できる候補薬
を3つ同定しました。
 更なる検討を行った結果、候補薬を1つに絞り込み、現在ヒト細胞への感染実験で評価する準備を進めています。
 将来的には、九大オリジナルのCOVID-19治療薬(新薬)の開発も目指します。
            
 

 私たちは、健康長寿に資する薬の開発を目指しています。健康長寿を 実現させるためには、 これまでの「すぐに良く効く」薬の開発法に
加えて、「長く安全に使用できる(つまり、副作用の少ない)」薬の開発戦略が求められます。また、健康維持に良いとされている食事や
運動も重要です。
 私たちの研究室では、筋肉の病気(心不全、筋萎縮性疾患、末梢循環障害など)の原因となるタンパク質が普段私たちの身体の中で
どういう働きをしているのかを理解し、正常時の働きは損なわず病的な働きだけを抑制し、健康状態に戻す創薬戦略の構築を目指しています。
 具体的には、血液循環ネットワークの恒常性維持を司る筋肉(心筋、血管平滑筋、骨格筋)が様々な外的ストレスに対して適応
(再生・修復)する仕組みを、細胞内のタンパク質や小器官(主にミトコンドリア)の品質管理の視点から解明し、筋肉の再生・修復を促進しうる
化合物を小動物に投与することで、その有効性を検証しています。
具体的には、以下の3つをテーマに研究しています。
1.病態特異的タンパク質間相互作用に着目した既承認薬の適応拡大(エコファーマ) :細胞外からの刺激を感知し、細胞内に情報を伝達する膜タンパク質が、病気の原因となるストレスがかかったときに別のタンパク質と複合体を形成し、正常時とは異なる情報(活性酸素の過剰生成)を起こすことで心不全を引き起こすことを明らかにしています。最近では、この病態特異的なタンパク質間相互作用に作用し、筋肉の萎縮を軽減できる既承認薬を同定しています。
2. 環境化学物質による疾患発症・予後悪化のリスク制御機構 :環境中にはタバコ煙やPM2.5、重金属など、化学反応性(親電子性)の高い化学物質が無数に存在します。こうした環境化学物質の複合曝露が、ミトコンドリアの品質を低下させ、疾患発症後の予後を増悪させることがわかってきました。私たちは、食品や温泉に含まれるイオウ含有成分が疾患発症および予後悪化のリスクを軽減できる可能性を見出しています。
3.運動を模倣する創薬への挑戦 :適度な運動はあらゆる病気の予防や予後改善に有効ですが、運動効果を模倣する薬は未だに存在しません。私たちは、筋細胞が萎縮する原因タンパク質を標的に、運動できない患者の筋肉を柔らかく保つ薬の開発を目指した研究にも取り組んでいます。